パリの東から

ソルフェージュについて
フランスに来たばかりのころはフランスのソルフェージュ教育にいたく感心したものだ。なにしろSofègeという言葉がフランス語なんだから、フランスのソルフェージュ教育が優れているのも当然だと思ったりもした。

私は日本ではあまりソルフェージュ教育を受けていなかったので、パリ・エコール・ノルマル音楽院とサン・モール国立地方コンセルヴァトワールの2つの学校でソルフェージュの授業を受けた。
エコール・ノルマルではソルフェージュ科主任の今は亡きピエール・デュランという先生に習ったが、一番上のクラスに入ったので、生徒も少なく、それにたまたま先生と私が同じ町に住んでいたので授業は先生の家で行なわれた。

授業はいろいろ行なわれたが、一番印象に残っているのは視唱である。先生がピアノで伴奏して、私がドレミで歌うが、その時一番使われたのはラヴィニャックの視唱集である。ラヴィニャックはドビュッシーのソルフェージュの先生である。
デュラン先生の伴奏は音楽的で、しかも何と435ヘルツに調律されたピアノを弾いていた。若いころの調律が身にしみこんでいて、442ヘルツという今のフランスの調律になじむことができなかったのだろう。でもこの調律はなんとも心地よかった。

サン・モール・コンセルヴァトワールでは左右の手で違うリズムをたたくポリリズムなど、比較的新しいソルフェージュ教育が行なわれていた。

さてフランスではどこであろうと固定ド唱法が行なわれる。今は日本もフランスの影響で固定ドが中心のようである。これはある意味何も考えなくても済むし、楽器を弾くには便利で多分必要な方法ではあるが、音感を養うには役に立たない。

ドレミを作ったのはイタリアのグイード・ダレッツォという人で、11世紀の始めのころである。

彼は「聖ヨハネ賛歌」(Ut Queant Laxis) のメロディーの各句の頭が音階になっているのに着目して、各句の頭の文字Ut・Re・Mi・Fa・Sol・Laを取って音階の名前にしたと言われているが、実際には多分グイード自身がこの曲を作曲したのだろう。なぜかと言うと、話があまりにもうまくできすぎているし、どうもこのメロディーには教育的配慮からの不自然さを感じるからだ。

Ut queant lexis
(筆者作成、この楽譜は自由にご利用下さい)

「聖ヨハネ賛歌」解説付きPDFファイル

Utは後により歌いやすいようにDoに変えられた、そしてLaとDoの間が空いているためにおこる不便を解消するために新たにSiが作られた。これは「聖ヨハネ賛歌」の第7句(上の楽譜最後の段)のSancte Johannes(=Iohanes)の頭文字を組み合わせたということである。ともかく、この曲こそは西洋音楽史上最初のソルフェージュ教材なのである。

なおインターネット上では、フランスでは今でもDoではなくUtを使っているという文を多く見かけるが、フランスでも今は歌う時はDoを使っている。調をいう時は、ハ長調をUt Majeurとも Do Majeurとも言う。ハ音記号は普通Clef d'Utと言う。

さてこのドレミファソラシの中で、ミとシの母音だけが「イ」になっている。この鋭い母音のためにそれぞれのすぐ上の音、ファとドとの間が半音であることを強く感じることができるのである。これは偶然なのだろうか? いや多分グイードも後に「シ」を作った者も、無意識的ではあるが、わかってて選んだのだと思う。

メロディーをドレミで歌うと言うことは、何よりも半音と全音の違いをはっきりと認識することにある。
そのためにはこのドレミは実にうまくできているのである。

ところが固定ド唱法で、たとえばイ長調をラシドレミファソラと歌ってしまっては、半音になるドとレ、ソとラにおいて、下の音の母音がともに「オ」になってしまって半音がたるんで認識されてしまうのである。このことからも音感を養うには移動ド唱法のほうが優れていると言える。

しかし実際問題として、楽器を弾くには固定ド唱法の方が実用的なことは否めない。
そこで、フランスでは徹底的に固定ド唱法で教えられたが、個人的には、歌うようなメロディーの場合は、移動ド唱法で歌ってみて音感を養うようにしている。つまり固定ド唱法と移動ド唱法を併用している。

たとえばショパンの「幻想即興曲」の冒頭

ショパン

のような速いメロディーを弾く場合でも、「ソラソファソドミレドレドシドミソ」ではなく、「ミファミレミラドシラシラソラドミ」と歌ってみるのである。これだけで最初の3つの音が半音になっていること、そしてこのフレーズがドミナントで始まってドミナントで終わっていることに気付く。そしてこのメロディーをただ指を速く動かすのではなくて、歌うように弾かなければならないことにも気づくと思う。


そろそろドレミ生誕1000年になるはずだ(2030年ぐらいらしい)。これだけドレミにはお世話になっているのだから盛大に祝いたいものである。

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テーマ:ソルフェージュ - ジャンル:音楽

  1. 2010/10/18(月) 19:26:16|
  2. ソルフェージュ
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:1

コメント
私も 今 この楽譜を家に貼ってます。

私の喉が癒される気がして とても気に入ってます。
教えてくれてありがとう!!!!! 
カムサハムニダ
  1. 2011/02/04(金) 01:01:47 |
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  3. miehf #-
  4. [ 編集]

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