パリの東から

バッハ「無伴奏チェロ組曲」第4番について
バッハ「無伴奏チェロ組曲」第4番の最大の問題、プレリュードの「早すぎたフラット」については別記事に書いた。ここではその他の問題に触れよう。


~ダブルかシングルか~

同じくプレリュードの第80小節の後半、4つのBの音があるが、これらはすべてダブルフラットである。ごく一部ではあるが、アレクザニアン、トルトゥリエなど、これをシングルフラットとする楽譜があり、またそのように弾くチェリストが時々いるので注意を促しておく。

彼らの理屈によると、フラットが一つしか書かれていないからというのだが、実はこのころはまだ今日のようなフラット記号を2つ並べるダブルフラットの記号はなかったようである(少なくともバッハは使用していなかった)。

「平均律クラヴィーア曲集」第1巻に面白い例がある。8番のプレリュードは変ホ短調(フラットが6つ)で、第26小節にダブルフラットのB音が2つ出てくるのであるが、バッハの自筆譜を見ると、そこには最初は小さなフラットが書いてあるだけなのだが、後にやたらと馬鹿でかいフラットで書き直しているのである。

Well Tempered 1-8

たださらに興味深いのだが、この馬鹿でかいフラットの下に隠れている記号をよくよく見ると、ただのフラットではなく、膨らみの部分が少しくびれているようなのである。これはバッハが考案した記号なのだろうか?しかしこれでは他人にはシングルフラットとあまり区別がつかないので、後にこの馬鹿でかフラットに書き換えたのだろう。

(追記
訂正します。この手稿譜はアンナ・マグダレーナのものでした。ですからくびれたフラットをアンナ・マグダレーナは知っていたわけです。しかし上から馬鹿でかフラットを書いたのは多分バッハではないかと思いますが確証はありません。)

さて「無伴奏チェロ」の方だが、バッハ自身はこのくびれたフラットを書いていたかもしれないが、ケルナーとアンナ・マグダレーナの筆写譜を見る限りその形跡はない。

ケルナー
4 Prelude Kellner double b color

アンナ・マグダレーナ
4 Prelude AMB double b color

しかしいずれにせよ、もしここがシングルフラットなら、わざわざここにフラットを書く必要がないのだ。もともとB♭なのだから。ここは調号のフラット、プラス臨時記号のフラットで、ダブルフラットと考えて良い。1+1=2というわけである。

またもしB♭であることを注意するためのフラットであるならば3度も書く必要はないということも言っておこう。

そもそもここはナポリの6度(トニックの完全4度上の音の上に付けられた短3度音と短6度音による和音。言い換えると、トニックの短2度上の音を根音とする長三和音の第1転回形)の場所であるが、シングルフラットではそのせっかくのナポリの6度の効果が薄れてしまう。変へ長調という普通ありえない遠い調に迷い込んだのち、トニックである変ホ長調に戻って来るからこそ、その安堵感を味わえるというのに、変ヘ長調を象徴するBダブルフラットを聞かせなくては何の意味もないのである。


アルマンド

多くの出版譜やチェリストが、第23から第24小節前半にかけての3つのA音にナチュラルを付けているが、4つの筆写譜すべてがここはA♭なのである。これは和音を勘違いしている(多分F7の和音に)からで、勘違いしている和音の方を修正すべきなのに、楽譜の方を修正してしまっているのである。

ここの部分は調がはっきりしないが、その後第25小節でト短調であることが明らかになる。するとここの和音はト短調のナポリの6度の和音(また!)であることが分かるのである。楽譜で示してみよう。

4 Allemande Ab

旋律しかないところで、低音を補ってナポリの6度であることを理解するのは、弾く方にとっても聴く方にとっても想像力を必要とするだろう。しかしもうここでA♮を弾く愚は終わらせてほしい。

続く

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  1. 2014/05/07(水) 04:16:10|
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