パリの東から

バッハ「無伴奏チェロ組曲」概要
以下に書かれていることは、ぼく独自の視点によるものです。この組曲の研究者に広く認めらているとは限りませんのでご注意下さい。



バッハ「無伴奏チェロ組曲」(全6曲)はヨハン・ゼバスティアン・バッハ(1685-1750)がケーテンにいた頃(1717-1723)に書き始められた。

この曲のバッハの自筆譜は行方不明である。これは同時期に書かれたと思われる「無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ」に立派な自筆譜が残されていることと比べて大変遺憾なことである。というのはそのために解決困難な、時には解決不可能と思われる問題が多くチェリストに突きつけられるからである。

他の人による「無伴奏チェロ組曲」の筆写譜は4種類残されていて、その中でもオルガニストで作曲家のヨハン・ぺーター・ケルナー(1705-1772)によるもの(1726年作成)と、バッハの2番目の妻アンナ・マグダレーナ・バッハ(1701-1760)によるもの(1727年から1731年の間に作成)はバッハの自筆楽譜から直接筆写されたと考えられ、特に重要である。これらは現在インターネットで誰でも見ることができる(こちら)。

特に最近はアンナ・マグダレーナの筆写譜の素晴らしいカラー写真版がバッハ・デジタルおよびIMSLPで公開され、この曲の研究のレベルが一段と上がることになった。従来の古い白黒のファクシミリ版では不鮮明な点が多く、実際トルトゥリエやぼくのように、だまされてしまった者もいる(ぼくはまだ生きているからいいが、トルトゥリエはどうしてくれる?)。またケルナーの筆写譜のカラー写真版も公開され、より研究のレベルの向上が期待できるようになった(ただ、アンナ・マグダレーナのよりも解像度がやや劣るようだが)。

ケルナーとアンナ・マグダレーナの筆写譜との間には相違点が多く、それらにはもちろん筆写ミスによるものもあるが、明らかにバッハが後に書き改めたためである箇所もある。

「無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ」に関しては、バッハは1720年に清書楽譜を完成しており、1726年にケルナーがこの曲を筆写しているにもかかわらず、ロ短調の第1パルティータが欠けていたり、曲の配列が異なっていたり、音の相違が見られたりする。そのことからケルナーが写譜するに際してバッハが貴重な自筆譜の代わりに草稿を渡した可能性が高い。

おそらく「無伴奏チェロ組曲」に関しても同じようなことが行われたと考えて良いだろう。つまりケルナーが写譜したのはバッハの草稿であり、アンナ・マグダレーナが写譜したのはバッハの清書楽譜である。

しかしながら資料間の相違がバッハ自身による改訂の結果なのか、筆写師のミスのせいなのか見極めるのは極めて難しく、そのためアンナ・マグダレーナの筆写譜に見られる第1番のジグの半小節や、第6番のガヴォットのシャープなどがアンナ・マグダレーナのミスの結果であるとされ、無視されるという重大な誤りが犯されている。

これらの問題点については、一つ一つ詳細に検討して行くほかなく、それぞれに高度な音楽的判断が必要とされるので、結局は検討されているのは楽譜の方ではなく校訂者の力量の方なのである。そういう点で「無伴奏チェロ組曲」に限らず、最近の「原典版」にはもちろん評価すべき点が多々あるが、とんでもない改悪も見られる。



この曲の最初の印刷出版は面白いことにドイツではなくフランス(パリ)においてであり、1824年のことである(その翌年、即座にドイツでその海賊版が出たが)。以降1826年のドッツァウアー版、1879年の旧バッハ全集版など、多くの版が出版され、その数はチェリスト、ディミートリ・マルケヴィチ(指揮者イーゴリ・マルケヴィチの弟)によると2000年の時点で93にも昇るそうである。

続く


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バッハ「無伴奏チェロ組曲」まとめ


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  1. 2012/12/15(土) 19:49:35|
  2. 無伴奏チェロ組曲
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:2

コメント
初めて書き込みます。チェロを弾く者です。
ジーグの半小節について意見しようと思いましたがガラケーなのでページに書き込めず、こちらに書き込みます。ご理解ください。
私の考えでは、31小節のdisはeへのアポジャトゥーラと見ます。ぶつかるのは6拍目のcですね。この小節からは素直に上がh-c-d-eと進行する下にg-e-fis-gと寄り添う6度の動きとし、下の音に前進するエネルギーを与えるために前打音を入れたと解釈します。
つまり、32小節4拍目の音に6拍目の音を重ねればわかると思いますが、ここを含めて三回、拍の頭(1拍目と4拍目)が不協和になりますし、次の拍で解決します。
しかし半小節を入れたらこの不協和から協和への前打音のパターンが崩れ、拍の頭が協和であとの二つが不協和になります。また、h-c-c-d-eという進行はいかにも不自然です。
更に、バッハがどうしても追加したかったなら、4小節なり2小節追加するはずだと思います。
半小節追加だとしても、私なら32小節と33の間にg-a-fisとドミナント(かサブかはっきりしない音)を重ねます。
それゆえ、マグダレーナが変わる音と変わらない音とを見間違え、小節線を引いてしまったと私は見ます。
  1. 2015/11/16(月) 00:12:26 |
  2. URL |
  3. きききた #20iHNtGM
  4. [ 編集]
きききた様、コメントを「無視された半小節」の記事の方に転載しました。ご了承下さい。
http://estparis.blog108.fc2.com/blog-entry-46.html
  1. 2015/11/25(水) 16:32:50 |
  2. URL |
  3. Shin-Itchiro #m.2.LkcQ
  4. [ 編集]

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