パリの東から

バッハ「無伴奏ヴァイオリン」アンナ・マグダレーナの写譜
バッハ「無伴奏チェロ組曲」のスラーあり版を作るにあたって、ぜひ研究しなければならないことがある。それはバッハの「無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ」のバッハの自筆譜と、アンナ・マグダレーナおよびケルナーによる筆写譜の比較である。

「無伴奏ヴァイオリン」は「無伴奏チェロ組曲」と同時期に作られたと考えられるが、どちらもバッハの2番目の妻アンナ・マグダレーナと、バッハの弟子(友人とも)であるオルガニスト、ヨハン・ペーター・ケルナーによる筆写譜が残っている。「無伴奏チェロ組曲」のバッハによる自筆譜のみが失われたわけである。

そこで「無伴奏ヴァイオリン」の自筆譜と筆写譜を比較することによってアンナ・マグダレーナやケルナーの写譜する時の癖を知り、「無伴奏チェロ組曲」の校訂、とりわけスラーの決定に役立てようというわけである。この研究は新バッハ全集編集の際に始められたようである。

残念ながらケルナーによる「無伴奏ヴァイオリン」の筆写譜はまだどこにも公開されていないが、アンナ・マグダレーナによるものはバッハ・デジタルによって美しいカラー版ファクシミリが公開されている。
http://www.bach-digital.de/receive/BachDigitalSource_source_00001199?lang=en

(追記、ケルナーの筆写譜もカラー版で公開されていることがわかりました。2つ上の記事を参照下さい)

比較の一例をあげてみよう。
パルティータ第2番のジグ(Giga)であるが、自筆譜では3つの8分音符の最初の2つだけにスラーがかかっているのに対して、アンナ・マグダレーナの筆写譜では3つの8分音符全部にかかってしまっている。この比較は「無伴奏チェロ組曲」第1番のジグの解釈において大いに役立つだろう。

バッハの自筆譜
Partita 2 Giga JSB

アンナ・マグダレーナの筆写譜
Partita 2 Giga AMB

また上の画像において、アンナ・マグダレーナの一番右下に見える6つの16分音符にかかるスラーが、バッハの同じ箇所と比較して、音符一つ分前にずれていることがわかる。

ぼく自身もこの研究を始めたばかりだが、アメリカのチェリストDavid Starkweather氏の研究ビデオをYouTubeで見ることができるので、興味ある方はどうぞ。このビデオではケルナーの筆写譜も資料として利用されている。




この現存するバッハの自筆譜をアンナ・マグダレーナが写譜したことは間違いないだろう。アンナ・マグダレーナがバッハの自筆譜のレイアウトまでなるべく忠実に写そうと努力した跡があるからだ。ただアンナ・マグダレーナの方がほんの少しだけ音符と音符の間が広いため、ほとんどいつも五線が足りなくなって、次の段に移って行ってしまう。しかし何とか取り戻して元に戻しているし、たまにバッハを追い越している時もある。

ただ第2パルティータのシャコンヌの途中からズレが大きくなりだし、収拾がつかなくなって追いつくのを諦めてしまっている。「ああ、もうダメ。もうどうでもいいわ」というアンナ・マグダレーナの声が聞こえて来そうなほど、はっきりと諦めたのがわかるのである。そして最終的にはバッハより2ページ多くなっている。

そして当然のことなのだが、アンナ・マグダレーナが写譜した「無伴奏チェロ」の原稿も、「無伴奏ヴァイオリン」と同等の、最終的なバッハの清書譜だったと考えて良いだろう。このことは極めて重要である。というのは「無伴奏チェロ」の原典版を作る際、どの資料を底本にするかという問題があるからである。


ボウイングについて

基本的にバッハのボウイングは簡潔である。例外は多々あるにせよ、小節の頭はダウンボウで始まる。同じ音形は同じボウイングで弾く。複雑なところはほとんどない。そのことから「無伴奏チェロ」のボウイングも、バッハの自筆譜では簡潔であったと類推していいと思う。


続く

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バッハ「無伴奏チェロ組曲」まとめ

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  1. 2014/04/10(木) 15:54:29|
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