パリの東から

アルヴィン・シュレーダー「170の基礎的練習曲」について
シュレーダー : 170の基礎的な練習曲 第1巻/カール・フィッシャー社チェロ教本シュレーダー : 170の基礎的な練習曲 第1巻/カール・フィッシャー社チェロ教本


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日本のチェロの学習者にはおなじみの、3巻からなるアルヴィン・シュレーダーの「チェロのための170の基礎的練習曲」について、気が付いたことを少しずつ書いて行こうと思う。

最初に、この練習曲集はアルヴィン・シュレーダーが書いたのではなく、ドッツァウアーやデュポール、メルクなど、チェロの名手たちが書いた練習曲の中から、アルヴィン・シュレーダーが170曲(実際には171曲なのだが)を選んで、指使い、ダイナミックスなどを書き加えたものである。


アルヴィン・シュレーダー(Alwin Schroeder)

アルヴィン・シュレーダー(1855-1928、シュローダーとも。英語読みだとアルウィンだろうか)その人については、次のサイトにやたらと詳しい(英語)。
http://www.ardenzamusic.org/#!alwinschroeder/c4a

ドイツの音楽一家に生まれ、初めはヴィオラ奏者だったが、チェロに転向した後、招かれてアメリカのボストン交響楽団の首席奏者になった人である。

ドヴォルザークはチェロ・コンチェルトを作るに際して、アルヴィン・シュレーダーから技術面でのアドヴァイスを得たらしい。この曲の影の功労者だったのである。

Alwin Schroeder


カール・シュレーダー(Carl Schröder)

Carl Schroeder

ところで「170の練習曲」には、C.Schröder という人の練習曲がやたらと載っている(数では一番多い)が、これはカール・シュレーダー(1848-1935)と言って、アルヴィンのお兄さんである。つまりアルヴィンは敬愛する(多分)、兄の練習曲をたくさんこの練習曲集に収録したのである。

カールはライプツィヒ音楽院のチェロ科教授になった人であり、当時はクレンゲル、ベッカーと並ぶ名手とされた人であったらしい(ユリウス・ベッキ「世界の名チェリストたち」による)。

しかしカールの練習曲は今日単独では出版されておらず、アルヴィンが「170の練習曲」に掲載しなかったら、忘れ去られていたかもしれない。ぼくはまだ全部は見ていないが、第2巻の5つの親指ポジションのための練習曲は、それぞれ固定された親指ポジションのために書かれており、非常に有益だと思う。

ところで上の写真は一応カールと紹介されている写真なのだが、髭といい額の形といい、あまりにアルヴィンに似ている。どちらもアルヴィンではないのだろうか。それとも本当にそっくりな兄弟だったのか?


フェルディナント・ビュッヒラー
(Ferdinand Büchler)

こちらはカール・シュレーダーよりさらに知られていないだろう。インターネット上では次のページに記述があるだけである(下の方)。
http://www.cello.org/heaven/wasiel/19germ2.htm

1817年ドイツのダルムシュタットに生まれ、1891に亡くなった人である。
メンター(Joseph Menter)という人の弟子であったらしいが、同門に教則本でおなじみのヨーゼフ・ウェルナーや、協奏曲でおなじみのゲオルク・ゴルターマンがいるので、結構身近な人のはずなのだが、この人の作品も今日単独ではまったく売られておらず、アルヴィンが掲載していなかったら、忘れ去られていた可能性がある。

しかもアルヴィンは、音楽的にも大変優れたビュッヒラーの作品21を、おそらく全曲であろう24曲をまるごと掲載しており、大変貴重な貢献をしている。これは「170の練習曲」において、他のチェリストの作品は抜粋で全曲掲載はしていないのに比べて、珍しいことである(ただしメルクの作品11は、全20曲中、11番の1曲を除いているだけだが)。

フリードリヒ・ドッツァウアー(Friedrich Dotzauer)

前の記事参照

ヨーゼフ・メルク(Joseph Merk)

220px-Joseph_Merk_Litho.jpg

メルク(1795-1852)は19世紀前半のウィーンを代表するチェリスト。シューベルト(1797-1828)とほぼ同世代で、実際シューベルトと友人であったらしく、ここに収められている作品11の練習曲はシューベルトに捧げられている。上のビュッヒラーのところにも書いたが、全20曲中、11番の1曲だけが除外されている。

またショパンの、チェロとピアノのための「序奏と華麗なるポロネーズ」はメルクに捧げられている。

続く

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  1. 2014/03/21(金) 13:10:02|
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ドッツァウアーの練習曲(エチュード)
ドッツァウアー(Dotzauer、ドッツアー、ドッツアウアー、ドッツァワーなどとも、1783-1860)はドイツのチェリスト。ドレスデン宮廷歌劇場管弦楽団でウェーバーやワーグナーの指揮の元、首席奏者を努めた人である。自身、チェロ協奏曲のほか、室内楽やオペラ、交響曲などを書いた才人でもある。

Friedrich_Dotzauer 2

しかし今日ドッツァウアーと言えば、ほとんどのチェリストにとっては何よりも「113の練習曲」(全4巻)で知られる。

しかしこれはグリュッツマッハーの弟子、クリンゲンベルクがドッツァウアーの書いたいろんな練習曲集から抜粋して、難易度の低いものから高いものへ並べ直したもの。もちろん本人は真面目に考えてのことだろうが、このためにひどく鬱陶しくうんざりするものになってしまった。世の中にはフランコムとかピアッティとかポッパーとか、ほかにもいろいろ楽しい(?)エチュードがいっぱいあるというのに、ドッツァウアーだけ113曲も並べられたらたまったものではない。

そのせいかフランスではどうもドッツァウアーは人気がないようである。ぼくの先生の一人、レーヌ・フラショー氏もひどく毛嫌いしていた(おそらく若い頃散々練習させられたからだろうが)。

しかしどう考えてもそれは不当だ。華やかさは少ないかもしれないが、ドッツァウアーの音楽性はなかなかいいと思う。中庸であり、チェロ・エチュードのスタンダードと言って良いだろう。悪いのは113である。

ドッツァウアー自身のオリジナルは、12曲とか24曲とか7曲とか少数の曲集なのである。大体それぞれの曲集で難易度が決められており、しかも曲の内容はヴァラエティに富んでいる。これなら一つ一つの曲集を、学習者のレベルに応じて仕上げていくことができる。113のようにいくら弾いてもまだたくさん残っている、といううんざり感に悩まされることもない。

幸いにも現在ではIMSLPでそれら個別の練習曲集を見ることができる。是非ともそれらで練習してみることをお勧めします。ドッツァウアーが俄然楽しくなること請け合い。
http://imslp.org/wiki/Category:Dotzauer,_Friedrich

(とは言ってみたものの、結局はドッツァウアーの練習曲を113以上に増やしたことになるのだから、ますますうんざりさせているような気がして来た。ドッツァウアー・マニア(?)の人だけにお勧めすることにしよう。)

またドッツァウアーの300以上あるという練習曲を抜粋してまとめたのはクリンゲンベルクだけではない。パリ音楽院のチェロ教授ルーブ(Loeb)もおそらく100曲を選んでクリンゲンベルク同様4巻にまとめているし、「170の基礎的練習曲」で知られるアルヴィン・シュレーダーも60曲を選んで2巻にまとめている(これはIMSLPで見ることができる)。

ルーブ版は今日最初の2巻だけが出版されているようだが、クリンゲンベルク版が圧倒的に普及しているのは、案外選曲がいいからかも知れない。ルーブ版が手元にないので比較できないが、シュレーダー版に関してはクリンゲンベルク版第4巻に見られるような高度な練習曲が欠けている。これではドッツァウアーの練習曲の全体像を知ることはできない。

ただし、ドッツァウアーは重音の練習曲を結構たくさん書いているのだが、113には少ない。クリンゲンベルクは重音が嫌いだったのだろうか?

ところで、クリンゲンベルクをドッツァウアーの弟子と紹介しているのをインターネット上で見かけるが、多分誤りだろう。クリンゲンベルク(1852-1905)はドッツァウアーの亡くなった年(1860年)には8歳だったわけだから、出会った可能性が絶対ないとは言えないが、彼はドッツァウアーの弟子であるドレヒスラーの、さらに弟子であるグリュッツマッハーの弟子、つまりドッツァウアーのひ孫弟子に当たる。全く関係がないとは言えないが、かなり遠い。

ドッツァウアーのオリジナル版について。

現在IMSLPで見ることのできるドッツァウアーの練習曲のうち、作品158と作品175はオリジナル版のようである。その他のものは他のチェリストによって校訂されており、指使いや強弱記号などが付け加えられている。

そこでオリジナル版と校訂版とをざっと比べてみたところ、オリジナル版は強弱記号に関してはかなり少なく、曲によっては全く書かれていないこともあり、指使いも控えめである。そのため実際の練習にあたっては、確かにそれらを補う必要があるだろう。

しかしながら、クリンゲンベルク版については、指使いに関してはオリジナルをかなり尊重しているものの、強弱に関しては少し書き加えすぎているような印象を受ける。クリンゲンベルク版を使う場合、それらの強弱記号はほとんどドッツァウアーによるものではないことを頭に入れておく必要があるだろう。また彼はほとんどいつも曲の終わりに、ラレンタンドやリタルダンドを書いているが、それらもオリジナルにはない。

ひとつ例を挙げると「113の練習曲」第2巻の第48番は、作品158の第7番であるが、そこに書かれてある強弱記号は全てクリンゲンベルクによるものであり、オリジナルには一つもない。
_____________________________________

さて、ここで「113の練習曲」のそれぞれの曲の元の曲集は何か一覧表にして、チェリストの学習に役立てたいと思う。この一覧表は少しずつ埋めていく予定です。
(現在113曲中、75曲判明)

一番左の数字は「113の練習曲」における番号。次がその曲のオリジナルの作品番号。一番右はオリジナルの中での番号。

作品35 「24の練習曲」
作品47 「12の練習曲」
作品54 「12の練習曲」
作品107 「12のやさしい練習曲」
作品120 「18の練習曲」
作品155 「24の毎日の練習曲」
作品158 「12の練習曲」
作品175 「7つの練習曲」

第1巻

1、120-1
2、
3、120-3
4、120-4
5、120-2
6、
7、
8、
9、
10、47-1
11、
12、
13、120-6
14、120-5
15、
16、107-1
17、107-3
18、47-2
19、120-10
20、107-2
21、
22、120-11
23、
24、120-13
25、120-14
26、47-7
27、120-16
28、54-5
29、
30、107-4
31、
32、47-5
33、120-8
34、

第2巻

35、54-12
36、107-5
37、
38、107-8
39、
40、47-3
41、47-4
42、
43、47-12
44、
45、47-8
46、107-6
47、54-10
48、158-7
49、107-10
50、35-1の後半
51、54-6
52、
53、
54、
55、107-7
56、54-3
57、
58、107-9
59、
60、
61、54-8
62、35-6

第3巻

63、107-11
64、35-11
65、
66、35-14
67、35-17
68、155-24
69、155-2
70、155-15
71、
72、107-12
73、54-9
74、158-8
75、
76、47-10
77、120-17
78、35-8
79、155-13
80、
81、158-2
82、155-7
83、
84、155-16
85、

第4巻

86、155-1
87、155-5
88、158-5
89、
90、158-4
91、155-6
92、54-2
93、175-2
94、155-20
95、
96、
97、158-6
98、
99、
100、
101、155-8
102、155-19
103、175-6
104、155-23
105、158-10
106、158-9
107、
108、
109、155-14
110、155-11
111、175-7
112、54-11
113、

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  1. 2014/02/24(月) 01:21:13|
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エチュードもオリジナルで~デュポール「21の練習曲」
ジャン・ルイ・デュポールのチェロのための「21のエチュード(練習曲)」といえば、日本ではどの版が一番使われているだろうか?

グリュッツマッハー編によるペータース版はやめたほうがいい。オリジナルと異なるところがかなり多い。グリュッツマッハーは19世紀のドイツのチェロの名手だったが、好き勝手に原曲を変えてしまう名手でもあった。
有名なのはボッケリーニの協奏曲の改変であり、さらに恐るべきと言おうか、バッハの無伴奏チェロ組曲を「編曲」してしまったりしている。これはIMSLPで見ることができる→http://bit.ly/BachCello(グリュッツマッハー編は2つあり、上の方)。

グリュッツマッハーに限らないが、ほとんどすべてのエチュードは編集者によって、多かれ少なかれオリジナルとは違うものに変えられてしまっている。しばしば、オリジナルを見てみると、作者の本来の意図がよくわかる場合が多い。

Duport-Instruction_on_the_Fingering_and_Bowing_of_the_Violoncellocover_100

デュポールのエチュードの場合も同じで、例えば15番(変ロ短調)はオリジナルはアッラ・ブレーヴェ(2/2拍子)なのに、グリュッツマッハー版、それにフランスのルーブ(Loeb)版でも4/4拍子に変えられてしまっている。
それに7番と8番を例外として、第2チェロの伴奏が付いており、この15番では8分音符による「きざみ」の音形がついていて、まるで古典派の交響曲や協奏曲のアレグロ楽章のようである。このような音形の伴奏は9番、12番、17番にも付いており、第1チェロだけ見ていてはわからない、その曲の本来の性格がよくわかるのである。

今日このオリジナル版はIMSLPで簡単に見られるので、ぜひ試して欲しい。→http://bit.ly/Duport(Complete Book の最後の方か、21 Etudes: Original version (2 parts) を選ぶ)
ただし、ト音記号は実際の音より1オクターブ高く書かれていることに注意。それに音符の上の点は、短く(スタッカート)ではなく、単にレガートではなく音を切って(デタシェで)という意味である。またところどころに音符や指使いのミスが見られるが、それらは大体はわかると思う。

また、兄のジャン・ピエール・デュポール(彼もまたチェロの名手であった)が書いた2曲(8番と10番)には残念ながら指使いが付いていないので、ルーブ版などを参考にせざるを得ない。

演奏会用の楽曲は、今日オリジナルを見直すというのが当たり前になっているが、エチュードにも同じ光を当てて欲しいと思う。 

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テーマ:チェロ - ジャンル:音楽

  1. 2011/10/30(日) 16:11:51|
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「革命のエチュード」は「チェロのエチュード」
革命のエチュード

最近、新しい曲はちっとも書かないで、編曲ばかりしています。

その中でとりわけおもしろいと思うものがこれ、

ショパンの「革命のエチュード」Op.10-No.12 のチェロとピアノ用編曲版。

これが意外にもチェロのエチュードとしても優れているのです。

チェリストの方はぜひお試し下さい。

参考音声付き無料楽譜はこちらです。

「横山真一郎 の 楽譜書庫」
http://bit.ly/ju19VC

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  1. 2011/05/10(火) 23:29:34|
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